【要注意】贈与税には時効がある?名義預金との関係と税務調査の落とし穴

    はじめに

    「10 年前に親からお金をもらったけど、税務署から何も言われていない。もう時効じゃないの?」

    相続や生前贈与の話が出ると、こんな声をよく耳にします。しかしこの「時効だから大丈夫」という考え、実は非常に危険です。

    特に名義預金と絡んだ贈与は、税務署に見抜かれやすく、時効が成立しにくいケースも多いのです。今回は、贈与税の時効と名義預金の関係について、税務の現場で実際に起こっていることを交えながら、わかりやすく解説します。

    贈与税の「時効」は 6 年。でも実は 7 年もある!

    まず、贈与税にも時効があります。税法では「除斥期間」と呼ばれ、以下のように定められています。

    • 通常の無申告:6 年
    • 悪質な無申告(意図的な隠ぺい・仮装など):7 年

    これは、「贈与を受けた年の翌年の 3 月 15 日の翌日(=3 月 16 日)」から数えてスタートします。

    例:2020 年に贈与を受けた場合
    → 時効のカウント開始は 2021 年 3 月 16 日
    → 通常の無申告なら 2027 年 3 月 15 日で時効

    ただし、これには大きな落とし穴があります。そもそも「贈与が成立していなかった」と税務署に判断されたら、このカウント自体が始まりません。

    名義預金とは?贈与税がかからない“もらっていないお金”?

    「名義預金」とは、例えば子や孫の名前で銀行口座を作って、そこに親が資金を入金しているような状態です。一見すると贈与のように見えますが、以下のような条件がそろわなければ、税務署は「これは贈与じゃない」と判断します。

    贈与が成立する条件

    • 贈与契約が成立している(口頭でも OK だが、書面があると確実)
    • 財産の移転が現実に行われている(通帳・印鑑の管理も含む)
    • 受贈者(子や孫)がそれを認識している

    つまり、「親が勝手に子名義の口座を作ってお金を移しても、それは贈与とみなされない」のです。

    結果:相続時に「相続財産」に組み込まれる
    → 税務署は「これは親の財産だ」として、贈与税ではなく相続税の対象にします。

    なぜ「時効が成立しない」のか?

    ここが最も重要なポイントです。

    贈与税の時効は、「贈与があった」と税務署が認めた場合に限ってスタートします。

    しかし、名義預金は「贈与がなかった=贈与税の対象でない」と判断されるため、

    時効のカウントが始まらない=永久に追徴される可能性があるという状態になります。

    特に相続税の調査のタイミングで、過去 10 年分、20 年分の預金記録を洗われた結果、名義預金が見つかり、「相続財産に追加」とされてしまうのです。

    【事例】「10 年前に子名義口座に振込んだお金」が今さら…

    たとえば以下のような事例。

    • 母親が毎年 100 万円ずつ、10 年間にわたって娘名義の口座に振込
    • 通帳と印鑑は母親が管理
    • 娘はその存在を知らなかった

    この場合、娘は「贈与を受けた」とは言えず、贈与の事実がないとされます。

    結果、母の死亡後の相続税調査で、その預金がすべて「母の相続財産」に追加され、相続税の追徴+過少申告加算税+延滞税が課されることになります。

    「うちは少額だから大丈夫」…と思っていませんか?

    贈与税の非課税枠(年間 110 万円)はよく知られていますが、これも誤解を生みがちです。

    • 「110 万円以下だから申告しなくていい」 → 原則は OK
    • でも、毎年 110 万円を超えていても申告していなかった場合、税務署にバレると 6 年・7 年前まで遡られて課税されます。

    しかも、同じ名義で毎年同額を振込んでいたようなパターンは、KSK システム(国税総合管理)によってパターン認識され、税務署が疑いを持ちやすいポイントです。

    贈与の「見せかけ」ではなく、実態がすべて

    税務署が見るのは、「通帳の名義」ではなく「実際の資金の支配関係」です。

    つまり、「誰がそのお金を自由に使える状態だったのか」が重要です。

    名義だけ変えても、中身(実態)が伴っていなければ意味がありません。

    時効を活用したいなら「正しい贈与」を

    6 年・7 年で時効が成立するなら、それを活用したいという考えもわからなくはありません。

    ですが、それには以下の条件が必要です。

    • 正しく贈与税を申告し、納税していること
      → 申告した上での不備なら、税務署が気づかなければ 6 年で時効成立の可能性はあります。
    • 贈与契約書を作成し、贈与を記録として残す
      → 書面にすることで、後の税務調査で「贈与の事実」を証明できます。
    • 通帳や印鑑を受贈者が管理していること
      → お金の支配が受贈者側にあることを示す明確な証拠になります。

    まとめ:贈与税と名義預金の時効は「油断禁物」

    内容説明
    贈与税の時効通常6年、悪質なら7年
    名義預金の問題点贈与と認められないと時効がカウントされない
    相続税への影響名義預金が相続財産に加算され、追徴課税の対象に
    安全対策贈与契約書の作成・通帳と印鑑の管理・申告

    最後に:贈与は「見えない爆弾」

    贈与は節税や資産移転の有効な手段ですが、やり方を間違えると、10 年、20 年経ってから高額な税金とペナルティが降りかかる“時限爆弾”になることも。

    「うちは大丈夫」と思わず、一度は専門家に相談することをおすすめします。

    特に名義預金が疑われるような状況がある場合、相続前にきちんと整理しておくことが、安心相続への第一歩です。