【完全版】建設業者にとっての相続とは?〜許可を守るための「事業承継の認可制度」とは〜

    (調布・府中・稲城・多摩地域の建設業者必見)

    はじめに:相続は「財産の話」だけではない

    「相続」と聞くと、多くの人は“遺産をどう分けるか”を思い浮かべるでしょう。

    しかし、建設業者にとっての相続は、それだけでは済みません。

    建設業は「人・許可・信用」で成り立つ業界です。

    代表者が亡くなった瞬間に、許可や経審(経営事項審査)、取引先との契約など、事業そのものが揺らぐリスクが生じます。

    特に調布・府中・稲城・多摩地域のように中小建設業者が多い地域では、「社長=会社そのもの」というケースが非常に多く、事業の継続には“相続対策”が欠かせません。

    1. 相続で直面する最大の壁:「建設業許可」の承継問題

    建設業を営む上で最も重要なのは「建設業許可」です。

    ところが、代表者が亡くなると——

    • 個人事業主の場合
      → 許可は自動的に失効します。
      相続人がそのまま工事を続けることはできず、新規で許可を取り直す必要があります。
    • 法人の場合
      → 法人そのものは存続しても、代表取締役が死亡すれば、すぐに代表者変更届を提出しなければなりません。
      さらに、代表者が経営業務管理責任者(経管)や専任技術者を兼ねていた場合、要件が崩れ、許可を維持できなくなるリスクもあります。

    2. 許可を守るための新制度:「事業承継の認可制度」

    こうした問題を解消するために、令和2年10月から「事業承継の認可制度」がスタートしました。

    これは、相続や合併などのときに、建設業許可を引き継げる仕組みです。

    ● 制度の概要

    建設業法第17条の2に基づき、次のようなケースで認可が受けられます。

    承継の種類具体例
    相続個人事業主が亡くなり、子どもが事業を引き継ぐ
    合併許可業者を他社が吸収合併する
    会社分割許可業者の一部事業を新会社が引き継ぐ
    営業譲渡許可業者の営業を他の法人が譲り受ける

    この認可を受けることで、旧業者の許可番号・有効期間・経審実績をそのまま承継できます。
    つまり、公共工事の入札資格も維持でき、取引も途切れません。

    3. 相続による「事業承継認可」の流れ

    1. 相続開始から30日以内に「事業承継認可申請書」を提出
    2. 承継人が経管・技術者などの要件を満たしているか確認
    3. 認可が下りると、旧許可を引き継いだものとみなされる

    注意すべきは、30日以内という期限。
    これを過ぎると認可は受けられず、許可失効となります。

    また、承継後は経営事項審査の再申請が必要ですが、実績が継続されるため、再スタートがスムーズです。

    4. 経営事項審査(経審)と入札資格への影響

    建設業者にとって「経営事項審査(経審)」は、公共工事を受注するための必須条件です。

    代表者の死亡や許可失効により、経審が無効になれば、入札資格も消滅してしまいます。

    しかし「事業承継認可制度」を使えば、許可・経審・入札資格を連続して維持できます。

    調布・府中・稲城・多摩地域では、市町の公共工事を受注する地場業者も多く、この制度を活用することは地域の仕事を守るための要になります。

    5. 相続税と事業資産の評価の難しさ

    建設業の相続では、次のような事業用資産が課題になります。

    • 倉庫・事務所・作業場などの不動産
    • 重機・ダンプカー・資材・リース資産
    • 未回収の工事代金や前払金
    • 保証金・借入金

    これらを正しく評価しなければ、相続税が過大になる・分割が困難になるといったトラブルが起こります。

    特に、事務所兼自宅などは「小規模宅地等の特例」の対象にもなり得ます。

    税理士や行政書士に相談し、どこまで事業用として扱えるか慎重に判断する必要があります。

    6. 従業員・取引先・金融機関との関係

    代表者の急逝により、従業員や協力会社、取引銀行との信頼関係が一時的に不安定になります。

    たとえば:

    • 工事現場の指揮が止まる
    • 下請業者が不安を抱く
    • 銀行が新たな保証人を求める

    というように、経営の混乱が生じやすいのです。

    このため、生前に「承継体制」を可視化しておくことが重要です。

    後継者を経管や専任技術者として登録しておき、社内・取引先にも「次は誰が引き継ぐのか」を明確に伝えるだけでも安心感が違います。

    7. 代表者保証・債務の引継ぎにも注意

    中小建設業では、代表者個人が借入やリース契約に個人保証をつけているケースが一般的です。

    代表者が亡くなると、その保証債務も相続の対象になります。

    相続人が引き継ぐか、相続放棄するかで事業継続の可否が分かれます。

    銀行との再契約・保証解除交渉も必要になるため、この部分は専門家(行政書士・司法書士・税理士)と連携して進めるのが現実的です。

    8. 法人化と生前対策のすすめ

    個人事業主のままでは、相続発生時に許可が失効します。

    そこで近年は、事前に法人化しておくことが相続対策として注目されています。

    法人化しておけば、

    • 許可は法人に帰属するため、代表者が変わっても失効しない
    • 経審や入札資格を維持しやすい
    • 株式の相続で承継がスムーズになる

    といったメリットがあります。

    また、後継者を経営業務管理責任者(経管)や専任技術者として登録しておくことで、相続発生時にも速やかに事業承継認可の申請が可能になります。

    9. 調布・府中・稲城・多摩地域の建設業者が今すぐすべきこと

    この地域には、代替わり目前の家族経営型建設業者が非常に多いのが実情です。

    もし次のような状況にひとつでも当てはまるなら、「事業承継認可制度」と「相続対策」の準備が急務です。

    • 許可名義が個人のまま
    • 後継者がまだ経管・技術者登録されていない
    • 公共工事を継続的に受けている
    • 社長が代表者保証をしている

    地域密着型の建設業こそ、「許可の継続」が命です。

    制度を知らずに許可が切れ、工事を続けられなくなるケースも現実にあります。

    10. 専門家と連携した“相続+事業承継”が成功の鍵

    建設業の相続は、単なる「遺産分割」でも、「税金対策」でもありません。

    “会社の命をつなぐ”総合的な承継対策です。

    行政書士・税理士・司法書士など、専門家とチームを組み、「相続」「許可」「税務」「金融」の4分野を一体的に整理することが成功のポイントです。

    まとめ:許可を守り、信用をつなぐために

    建設業者にとっての相続は、まさに「許可と信用の承継」です。

    特に多摩地域(調布・府中・稲城など)の中小業者にとって、事業承継の認可制度は、次世代へ仕事と信頼を引き継ぐための切り札といえます。

    • 許可が切れないように生前準備を
    • 相続発生後30日以内に認可申請を
    • 経管・技術者の登録を後継者に移行
    • 専門家に早めに相談

    「相続」は“終わり”ではなく、“次の建設”の始まりです。
    許可と信用を守り、地域に根ざした建設業を未来へつなぎましょう。