【相続税がかからない場合の落とし穴】葬式費用を被相続人の預金から支払っても大丈夫?

    相続に関する相談でよくある質問のひとつに、「葬儀費用は被相続人の預金から払っていいのか?」というものがあります。特に相続税が発生しないケースでは、税務署の申告義務がないため、何となく手続きを簡略化してしまいがちですが、油断は禁物です。

    この記事では、相続税がかからない場合における葬式費用の扱いについて、注意点やトラブルを防ぐコツをわかりやすく解説していきます。

    1.相続税がかからない=手続きが自由、ではない!

    「相続税がかからないんだから、被相続人の口座から引き出して葬儀代を払ってもいいよね?」

    このように考える方は少なくありません。実際、相続税の課税対象にならない場合は、税務署に対して細かな報告義務もなく、手続きも簡略化されます。しかし、相続税がかからなくても「相続財産は法定相続人全員の共有財産」という原則は変わりません。

    つまり、相続手続きが終わる前に預金を引き出して使う場合は、他の相続人の同意を得るのが基本です。

    2.葬儀費用を被相続人の預金から支払うことは問題ない?

    結論から言えば、原則として問題ありません。

    むしろ、実務上は「相続人が立て替えるよりも、故人の預金から支払ったほうがスムーズ」というケースの方が多いです。葬儀費用は数十万円から百万円以上かかることもあり、相続人が即金で用意できない場合もあるからです。

    ただし、以下の点に注意が必要です。

    3.注意点①:他の相続人への説明はしっかりと

    相続人が複数いる場合、自分の判断だけで勝手に口座からお金を下ろして葬儀費用に充てると、「勝手に使った」と疑われるリスクがあります。

    たとえば、

    • 「本当にその金額が葬儀費用だったの?」
    • 「もっと安く済ませる方法もあったんじゃない?」
    • 「領収書はあるの?」

    といった声が上がることも。

    このようなトラブルを防ぐためには、領収書・見積書などをきちんと保管し、他の相続人に報告することが大切です。可能であれば、事前に了承を得る、もしくは事後にでも丁寧に説明することで信頼関係を損ねずに済みます。

    4.注意点②:金融機関によっては「凍結口座」の扱いに注意

    被相続人が亡くなったことが銀行に伝わると、口座は凍結されてしまい、自由に引き出すことができなくなります。とはいえ、金融機関によっては、葬儀費用に限って一定額までは引き出せる「葬儀費用の支払い制度」を設けているところもあります。

    たとえば、ある大手銀行では「死亡届が出されたあとの口座からでも、上限150万円までは葬儀費用に充てるための引き出しが可能」といった制度があります。ただし、これは各銀行の判断によるため、事前に確認が必要です。

    凍結される前に引き出した場合でも、やはり相続人全員で共有する財産を動かしたことになるため、後でしっかり説明することが重要です。

    5.注意点③:遺産分割協議書で明確にしておくと安心

    相続人の中に「自分は知らされていなかった」と感じる人がいると、後々の遺産分割協議がややこしくなります。葬儀費用の支出については、遺産分割協議書の中で明記しておくのがおすすめです。

    たとえば、次のように記載します。

    《遺産分割協議書の記載例》
    「相続人●●は、被相続人の葬儀費用として○○万円を支出した。これは相続財産から控除することに相続人全員が同意する。」

    こうすることで、「後でモメない仕組み」が作れます。

    6.相続税がかかる場合との違いは?

    参考までに、相続税が課税されるケースでは、葬儀費用は「債務控除」の対象になります。つまり、相続税の計算上、遺産の総額から葬儀費用を差し引いてOKなのです。

    これに対して、相続税がかからないケースでは税務署に申告する必要がないため、控除云々の話は関係ありませんが、「財産の使途について相続人間で納得しているかどうか」が大切なポイントになります。

    7.まとめ|事前か事後、いずれかで「共有」しておくのが円満相続のコツ

    相続税がかからないからといって、相続の手続きがフリーハンドになるわけではありません。特に、被相続人の預金を動かすときには、使い道や金額の説明責任を意識することが大切です。

    葬儀費用は一時的な出費とはいえ、相続財産の使い方の第一歩です。この段階で相続人間の信頼関係が崩れてしまうと、後々の分割協議や名義変更などもスムーズに進みません。

    最後にポイントだけおさらい

    • 葬儀費用を被相続人の預金から支払うことは原則OK
    • 他の相続人への説明と領収書の共有はしっかりと
    • 遺産分割協議書で明記しておくとトラブル防止に
    • 金融機関のルールや凍結前後の扱いにも注意

    葬儀という慌ただしい時期に、つい見落としがちなポイントですが、一手間かけるだけで大きなトラブルを防げます。

    円満相続の第一歩として、ぜひこの記事を参考にしてみてください。