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一人が現金を受け取って他の相続人に分けても OK?代償分割の実務と注意点
相続の場面では、預金や不動産をどうやって公平に分けるかが大きなテーマになります。中でも「被相続人の現金を相続人の一人が受け取って、そこから他の相続人にお金を分配する」という方法は、実は多くの家庭で選ばれている現実的な手段です。
しかし、この方法、ただ単に「じゃあ私がいったん全部もらってから分けるよ!」で済ませてしまうと、後々トラブルになる可能性も…。今回はそんな「代償分割」の実務と注意点を、わかりやすく解説します。
■ 一人が全部受け取って、そこから分けるってどういうこと?
相続財産の中に「預貯金 1,000 万円」があり、相続人が子 A と子 B の 2 人だとしましょう。法定相続分はそれぞれ 1/2 ですので、理論上は 500 万円ずつ受け取ることになります。
しかし、手続きの簡便さや家族内の信頼関係から、たとえばこのようなことが行われる場合があります。
「子 A の口座に 1,000 万円全部を振り込み、そこから子 A が子 B に 500 万円を振り込む」
ぱっと見、合理的でシンプル。現金は目減りしないし、分けやすい。手続きもラク。
この方法、実は実務ではかなりよく使われていて、特に不動産のように分けづらい財産がない場合には有力な選択肢です。
■ これは「代償分割」の一形態
このように、相続財産を一人の相続人が受け取って、他の相続人に金銭で“代償”を支払う方法は、「代償分割」と呼ばれます。
特に不動産が主な財産であるケースでは、「自宅を長男が相続し、その代わりに他の兄弟姉妹にお金を渡す」といった形でよく利用されています。
今回のように「預金を全部一人が受け取って、その後に分配」する場合も、形式的には代償分割にあたります。
■ 全員の同意が必須!
ここで最も大事なポイント、それは——
全員の合意があること!
相続財産というのは、遺産分割が完了するまでは全相続人の共有状態にあります。ですから、「勝手に引き出して使っちゃえ!」というのは NG。家族だからといっても、法律は容赦ありません。
銀行などの金融機関も、この点を非常に重視しています。預金を引き出すには以下のような書類が求められるのが一般的です。
- 相続人全員が署名・実印を押した遺産分割協議書
- 印鑑証明書
- 戸籍謄本一式(相続関係を証明)
もしくは、家庭裁判所の調停や審判書による手続きもありえますが、実務上はやはり「話し合いで全員が合意している」ことが大前提です。
■ 税務面でも注意が必要!
「どうせ家族で分けるんだから問題ないでしょ?」と思いたくなる気持ちは分かります。し かし、税務署はそう簡単には納得してくれません。
たとえば、代償金の支払いがあいまいなまま、形式上だけ誰かが全額を相続したように見えてしまうと、こんなリスクが出てきます。
- 他の相続人への支払いが「贈与」とみなされる
- 結果として贈与税の対象になる
- 相続税の計算が誤っていたとして、追加で課税される可能性も…
そうならないためには、「代償分割としての支払いである」ことを明確にしておくことが超重要です。
■ 書面での証拠が命!遺産分割協議書を忘れずに
このような代償分割を行う場合、遺産分割協議書にしっかり記載しておくことが、後々のトラブルを防ぐ最大のポイントです。
たとえば以下のような文言を盛り込みましょう。
【例:遺産分割協議書の記載例】
第〇条
相続人 A は、被相続人〇〇の預貯金(〇〇銀行××支店 普通預金 口座番号:●●●●●●)を全額相続する。
ただし、その代償として、相続人 A は相続人 B に金 500 万円を支払うものとする。
このように、「誰が何を取得し、代わりに誰にいくら払うか」を明確に書いておくことで、税務署にも「ちゃんと相続に基づいた支払いですよ」と説明できます。
■ 実務のコツとまとめ
- 相続財産を一人が受け取ってから分配する方法は、代償分割として合法的かつ実務的に有効な手段です。
- ただし、相続人全員の合意と協力がなければ成立しません。
- 税務上のリスクを避けるためには、遺産分割協議書の作成と、きちんとした記録の保管が重要です。
「うちは家族仲いいから」と安心していても、相続後に状況が変わることも少なくありません。後々のトラブルを避けるためにも、手続きはしっかり、記録はきっちりを心がけましょう。
相続の手続きは、法的な知識と実務的なバランス感覚が必要です。自分たちだけで進めるのが不安な場合は、行政書士や司法書士、税理士などの専門家に相談するのも一つの手です。うまく進めて、相続をスムーズに終えましょう。