相続と時効の意外な落とし穴――10 年経ったら消える?もらえるはずのお金と借金の話

    相続の話になると、多くの人は「遺産分け」や「遺留分」などを気にしますが、実は意外と見落とされがちなのが「時効」の問題です。

    「亡くなった父が貸していたお金、返してもらえると思ったのに…」
    「10 年前の借金が今さら請求されてきたんだけど!?」

    こんなことが起きてしまうのは、相続に関係する“債権”に時効というルールがあるからです。

    今回は、そんな「相続と債権の時効」について、具体的な事例を交えてわかりやすく解説していきます。

    ■ 債権ってなに? 相続とどう関係するの?

    まず基本から。

    債権とは、「誰かに対してお金や物を請求する権利」のこと。相続においては、亡くなった人(被相続人)が持っていた債権も、そのまま相続人に引き継がれます。

    逆に、被相続人が他人から借りていたお金(つまり債務)も相続の対象になります。借金まで引き継いでしまうのは意外と知られていませんよね。

    そして、こうした債権や債務には、「時効」というタイムリミットがあるのです。

    ■ 時効の種類とルール(ざっくり解説)

    2020 年の民法改正により、債権の時効は次のように整理されています。

    債券の種類時効期間
    原則権利行使ができると知った時から5年or客観的に10年
    商事再建(取引による請求)通常5年(旧法)
    民事再建(個人間の貸し借り)通常10年(旧法)

    現在は、「5 年 or 10 年」というルールが基本です。ただし、起算点(いつからカウントが始まるか)は重要なポイント。以下の事例で見ていきましょう。

    ■ 事例①:亡くなった父が友人にお金を貸していた!

    【登場人物】
    * 父(被相続人):5 年前に他界
    * A さん:父の友人。生前に 100 万円借りていた
    * あなた(相続人)

    【状況】
    遺品を整理していたあなたが、父と A さんの間で交わされた「借用書」を発見。しかも、まだ返してもらっていない!

    「これはもらえるはず!」と A さんに連絡したところ、こんな返事が…
    「え?そんな昔の話…もう時効じゃないの?」

    そう、実は返済期限から 10 年以上経っていたのです。

    【結論】
    このケースでは、時効が完成している可能性大。A さんが「時効を援用する」と言えば、たとえ証拠があっても請求できません。

    ポイント:債権(お金を返してもらう権利)も相続されるが、時効は「元の返済期限」から進んでいる!

    ■ 事例②:亡くなった母の借金が、10 年経ってから請求された!

    【登場人物】
    * 母(被相続人):10 年前に死亡
    * 消費者金融 X 社:母の借入先
    * あなた(相続人):母の財産を相続済み

    【状況】
    10 年前に母が亡くなったが、何の請求も来なかったので安心していた。ところが最近、X 社から突然の通知。

    「お母様の借入金 50 万円について、相続人であるあなたにご請求いたします」

    思わず絶句。でも、時効では?

    【結論】
    ここでのポイントは、X 社が「いつまでに、どのような請求行為をしていたか」です。

    • 最後の返済から 5 年以上請求していなければ、時効が完成している可能性が高い。
    • しかし、途中で内容証明郵便などで催告していれば、時効が中断(更新)している可能性もある。

    さらにやっかいなのが、「うっかり電話で“支払います”と言ってしまうと、時効がリセットされる」こと。言葉一つでアウトになることもあるのです。

    ポイント:「借金は相続しない」が原則ではない。放棄しなければ債務も相続対象。時効援用の判断は慎重に。

    ■ 遺留分にも時効があるって知ってた?

    相続のトラブルでよくある「遺留分」。これは、兄弟や親が遺言で不公平に財産を配分した場合などに、法定相続人が「最低限の取り分」を請求できる制度です。

    この遺留分侵害額請求権にも、時効があります。

    知ったときから1 年以内
    相続開始から10 年以内

    例えば、あなたが遺言で遺産をまったくもらえなかったことを知ってから 1 年以内に請求しないと、泣き寝入りになります。

    ポイント:「知らなかった」では済まない。遺言の開示後は時計が動き出す!

    ■ 遺産分割に時効はあるの?

    実は、遺産分割そのものには時効がありません。相続人同士で分割協議が整っていない場合、数十年後でも請求可能です。

    ただし、例外もあります。たとえば、長年にわたり特定の相続人が一方的に財産を管理していた場合、他の相続人の請求が「信義則違反」として却下される可能性があります(裁判例あり)。

    ポイント:遺産分割は時効なし。でも放置しすぎると“手遅れ”になることも。

    ■ まとめ:もらえるお金を逃さない!払う必要のない借金は時効で防げ!

    相続では、「遺産」や「遺言」に目が行きがちですが、債権と時効のチェックは見逃せない重要ポイントです。

    チェックリスト

    • 被相続人が貸していたお金 → 時効内か確認!(10 年 or 5 年)
    • 被相続人の借金 → 時効で消えているかも?すぐ専門家に相談
    • 遺留分の請求 → 1 年以内!急げ!
    • 遺産分割 → 時効はないけど、早めに動こう

    ■ 最後に:迷ったらプロに相談を!

    相続に関する債権や時効は、非常に複雑で専門知識が必要です。

    「時効かもしれない」「相手が支払ってくれない」「請求が来て困っている」――そんなときは、行政書士や司法書士、弁護士など専門家に早めに相談しましょう。

    知らなかったでは済まされないのが、相続とお金の世界。

    正しい知識と少しの備えで、後悔しない相続を迎えましょう。